ワンポイントアドバイス
―長引くうつ病への入院治療の効果―

広瀬徹也(神経科土田病院特別顧問)

長引いたうつ病の治療で考慮すべきことのひとつに入院治療への切り替えがあります。重症や希死念慮の強い時は入院治療が当然のこととして選択されますが、軽症から中等症のうつ病では経過が長引いても、入院治療を選択することが意外とためらわれて、軽快しないままずるずると時間だけが経過しがちです。それは互いにクリンチしたボクサーをレフリーが介入しないで放置するのに等しく、好ましくありません。
確かに外来通院にくらべ、入院についてはなお偏見も強く、勧めても応じない方が多いのは残念なことですが、以下に述べる入院のメリットを知って考え直す必要があります。一方、御本人は入院を希望していても、子供や介護を要する親を抱えた女性やペットを飼っているなどの種々な家庭的事情で、実現困難な場合も少なくありません。そのような場合でも親族やケースワーカー・保健師の援助も仰いで、粘り強く入院実現に向けて努力をしていくべきでしょう。

入院治療のメリットとしては以下のものがあります。
① ひとたび入院すれば生活リズムは整いやすく、服薬も規則的になることは当然ですが、外来治療では主治医は知らぬまま、この基本的治療原則が守られていないことが予想以上に多いのです。まずは適正な食事、睡眠を確保しながら、運動療法を行います。慢性化したうつ病ではおっくうさや身体のだるさはそれほど強くないので、その気になれば運動(散歩)は可能です。運動が食事、睡眠に好影響をもたらすことは事実ですので、三者の相互作用による好循環によって、外来治療での悪循環の打破が期待できます。

② うつ病が長引いたまま無理して仕事を続けていた方にとって、入院によって初めて仕事を休んで真の休養が得られる価値はとても大きいのです。自宅療養ではいろいろ気を遣うことも多く、真の休養になっていないことが少なくありません。特に上司や同僚に隠して外来治療を続けてきた方には自然なカミングアウトになり、秘密の解消の効果は計り知れません。会社での適正な理解が得られれば何よりのサポートになり、復帰後の良好な経過が見込めるからです。

③ 勤労者でなくても入院を契機にうつ病への理解が深まることはしばしば見られます。外来治療での主治医や臨床心理士だけの接触とは違い、病棟のナースなどの治療スタッフや他の患者さんとの接触は大きな治療的支援となります。同じ悩みを抱えた仲間がいることを知るだけで失われた自信が回復するなど、治療的効果は予想外に大きいものです。

④ 仕事から離れるのと同様に、家族から離れるメリットが大きい場合も少なくありません。家族関係が慢性化の要因となることがあるからです。
治療者にとっても入院によって、外来では会えなかった家族や職場関係者などに会える機会が増えて、病気の理解に不可欠な情報に初めて接することもあります。それによって家族療法など新たな治療戦略が立てられ、それがうつ病の慢性化の突破口になることがあります。

⑤ 自宅療養中の週日の外出は近所の目が気になってひきこもりがちになりますが、入院中はそのようなこともなく、自由に散歩できるメリットはあなどれないものがあります。散歩(療法)は運動のひとつであるだけでなく、内に向かいがちなこころを外に向けてくれる優れた方法です。健康な時は急いで通り過ぎていた街並みや、植木、草花にも目が向けられ、それらの美しさに惹かれ、四季の変化を実感することがうつ病からの脱出のきっかけになることさえあるのです。

⑥ 主治医を変えることは慢性化したうつ病では考慮されてよいことですが、実際にはなかなか言い出しにくいものです。その点入院によって主治医が自然に変わる場合も多いので、それも入院治療のメリットといえましょう。

このように、重症だから入院ではなく、軽症でも長引き、慢性化するうつ病では入院治療はもっと考えられてよいものといえましょう。

(上記は医療者向けに専門雑誌に書かれたものを一般向けに文章を手直ししたものです。原典:臨床精神医学46(5):633,2017)